のほほん評判記 |
芸術が爆発するイメージを裏切って、端正な日本語による論旨が明確な日本の美の伝統についての論考。 縄文土器や尾形光琳そして庭園を題材に、アカデミズムとは一線を画した思考は鋭く、また興味深い。縄文土器の異様なまでの美しさや、漲(みなぎ)る生命力に触発されて太陽の塔が造形されたであろうことは想像できますが、そういった観念的なことではなく、対象の歴史や社会状況までも含めて展開される論には、素直に首肯(しゅこう)させる説得力があります。 特に後半の中世の庭園の項では、京都や奈良の有名な寺院の庭園を著者本人が撮影した写真も交えて評論。枯山水や借景といった様式の他に、須弥山(しゅみせん)や蓬莱山(ほうらいさん)を模した仏教の世界観や思想、さらには哲学にまで踏み込んでその庭園を理解しようとする姿勢には、芸術家というより学者のような厳密ささえ感じられます。 庭園はその時代によって手が加えられ、原初の姿を留めているものはありません。借景に至ってはその構図に育った松が枝を伸ばし、人家が迫っている有様です。著者はそれを残念がりますが、否定はしません。著者にとって日本の伝統とは、過去の遺産を骨董品のように保存することではなく、常に過去を否定して新たに再生し続けることにあるからです。 |