のほほん評判記 |
このコーナーで何度か紹介しました立正大学教授の文がついていますが、この本の主役はあくまで写真です。 写真家の内藤氏は、以前に「身延山・七面山」という論考付きの写真集(名著ですが絶版)も出版されていますし、民族学や宗教学の本も出されているので、安心してページを繰ることができます。 著者の写真を見るたびに、何か強く心に訴えかけてくるものがあります。それは、そこに流れる親密な空気が、信仰の対象の事物や場所と見る者を強く結びつけるからでしょう。 本書は日蓮聖人の足跡を順にたどり、有名な霊蹟(れいせき)の他に、どちらかと言えば観光コースから外れた、ひっそりとした祠(ほこら)や仏像も訪ねて歩く構成になっています。法難の際に避難した岩窟、傷を洗った井戸、頸の座の石、腰をかけた岩、守護の神仏の像や龍の鎮座していた岩など、史実と伝説の境界が曖昧(あいまい)なものもありますが、まぎれもない信仰の息づく場所であることは間違いありません。 ページの向こうから漂う、そういった気配に耳を澄ませてみたり……。忙しくて遠くの霊蹟参拝に行くことができない方など、本書を通して時空を超えた旅に出かけてみるのはいかがでしょうか。 |