戒律を厳しく守り、優秀で統率力もあったデーバダッタ(提婆達多=だいばだった)は、お釈迦さまの弟子であり従兄弟でもありました。
ある日彼は、お説法を終えたお釈迦さまの前に進み出て、こう申し述べたのです。
「世尊は年老い、お疲れのご様子に皆が案じております。この上は私に教団をお任せいただき、世尊は安心してお体をおいたわり下さいますよう」
すると、お釈迦さまはこうお答えになりました。
「人のツバを六年も食らうような下劣な者に、どうして私の命よりも大事な弟子たちを任せられようか」
デーバダッタが六年もの間、名誉欲にかられてマガダ国のアジャセ王子とつながり、大勢の弟子たちをもたぶらかそうとしていたのです。
彼は大恥をかいて怒りから理性を失い、お釈迦さまに殺意を抱くようになりました。そして、お釈迦さま目がけてこっそり崖の上から大石を落としたり、酒を飲ませて正気を失った象をけしかけたりしましたが、どれもこれも失敗に終わります。
ついに彼は自らの爪に猛毒を塗り、お釈迦さまを直接引っ掻いて殺そうと企みました。そして、途中の道でつまずいて思わず手をついた時、爪が割れて傷口から毒が入り、地獄の苦しみを味わって死んでしまったのです。
しかしお釈迦さまは、デーバダッタもまた仏になるのだと、弟子たちを諭されました。そして、実は前世において彼はお釈迦さまの師であったことを明かされ、いつの世も悪の存在こそが自身の内面を映し出し、自身を成長させ、自身を善たらしめる存在なのだと説かれたのです。
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