ある麦畑に、頭はライオンで背丈や尾はロバに似た奇妙な動物がやってきました。実はある商人が自分のロバに良い麦を存分に食べさせようと、ライオンの頭のついた毛皮をかぶせていたのです。案の定、農夫たちはその姿に驚いて誰も追い払うことができず、ロバはゆうゆうと麦を食べ続けました。
明朝、また商人はロバにライオンの毛皮をかぶせ、麦畑に放しました。しかし大切な麦を片っ端から食い荒らされ、たまりかねた農夫たちは、ついにその奇妙な動物を退治しようと、弓矢を持って集まりました。そしてほら貝を吹き、太鼓を打ち鳴らして近づくと、ロバはその音に驚いて鳴き声を上げてしまったのです。農夫たちは、それがロバだと分かると、骨も砕けるほど打ち、毛皮をはぎ取って去っていきました。
弱り切ったロバを前に、商人はこんな詩を唱えました。
「ライオンの毛皮まとって声たてず、威厳示せばいつまでも食べれた良い麦を、余計な声で自滅したロバのいななき命取り」
そうしてロバが息絶えると、商人もその場を去っていきました。
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