ブッダの十大弟子の一人のアヌルダは、ブッダの法座で居眠りをしたことを恥じて、絶対に眠らないと誓いました。そして厳しい修行を続けた結果、ついに失明してしまいまったのです。
ある時、アヌルダは自分の衣のほころびに気づきました。智恵の眼は開いていても肉眼を失明しているので、どうしてもぬい針の穴に糸を通すことがなかったのです。
途方にくれたアヌルダはこう言いました。
「悟りに達した聖者方の中で、どなたか私のために針に糸を通して、さらに功徳(くどく)を積もうという方はおられませんか」
するとある者がアヌルダのそばに近づき「私にその功徳を積ませて下さい」と言いました。その声はブッダの声でした。アヌルダは驚いて「世尊(せそん)よ。私はすでにあらゆる功徳を積まれている世尊にお願いしたのではありません」と言いましたが、ブッダはこう答えたのです。
「アヌルダよ、世間に功徳を求める人は多いが、私の功徳にまさる者はいないだろう。たしかに私は、施しや説法などすべての点で不足するところはないが、それでもなお功徳を積もうとしている。それは私自身のためではなく、生きとし生ける者すべてのためなのだ」
ブッダの心を知ったアヌルダは、ただ黙ってブッダに衣のほころびをぬってもらったのでした。
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