お釈迦(しゃか)さまの前世の菩薩(ぼさつ)は、無数の過去世で限りない功徳(くどく)を積んだ結果、兜率天(とそつてん)という天上の世界に昇り、そこで地上に下る時期が来るのを待っていました。
やがて天上の音楽が奏(かな)でられ、地上に下る時が近づいたことを知らされた菩薩は、自分の宮殿を出て、神々が集まる集会堂の獅子座(ししざ)につきました。そこで神々は、菩薩の生れる時期と国と家柄、父母となる人の条件について、観察し相談し合いました。人間の社会が完全な状態の時には、人々は宗教を求める心を起こさず、反対に堕落した場合もその余裕がないので、ブッダの教えを必要とする時期を選ばなければならなかったのです。
また国土には六十四、母となる女性には三十二の条件が示されました。そして相談の結果、その菩薩の両親にはシャカ族のシュッドウダナ王とマーヤ妃が良いということに決まったのです。
そこで無数の天女たちは「ブッダの母となる人はどんな女性か」と思って地上に下って行き、非のうちどころのないマーヤ妃を見て感嘆(かんたん)の声をもらしました。
インドの暦(こよみ)でヴェーサーカ月の満月の日。時期を知った菩薩は六牙(ろくげ)の白象となり、マーヤ妃の右脇から胎内(たいない)に入りました。その時マーヤ妃は静かに眠ったままで、それを夢に見ていたのでした。
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