これは法華経(ほけきょう)の『薬王菩薩本事品(やくおうぼさつほんじほん)』に説かれるお話です。
薬王菩薩(やくおうぼさつ)は、お釈迦さまの優秀なお弟子さまの一人。その前世では日月浄明徳(にちがつじょうみょうとく)という仏さまがお説きになる法華経の教えに従い、日々修行に精進(しょうじん)されていました。そしてどの様な姿にも思うままに変身出来る「現一切色身三味(げんいっさいしきしんざんまい)」という神通力を持つほどになったのです。
菩薩は心から喜んで、仏様と法華経の教えに深く感謝し、そのご恩に報いるため種々の天の華や香水を供養しました。しかし菩薩はその時思いました。
「これ位のことではまだ不十分だ。自分が今できうる最高の供養をしなくては」
そして自らの身に火を放ったのです。その光は千二百年の間、八十億の世界を照らし続けました。
ついに菩薩の身が燃え尽きたその時、不思議な事に彼は国王の息子として、再びその国に生まれました。そして長年お仕えした日月浄明徳仏の入滅に際し、遺骨を八万四千の宝塔に分けて祭ると、今度は自分の両腕に火を付けて供養したのです。菩薩はなんと七万二千年もの間、腕を燃やし続けながらも教えを広め、多くの弟子たちを導きました。そうして燃え尽きた両腕は、その智恵と功徳(くどく)の深さによって自然に元通りになったのです。
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