花まつり
今から三千年ほど前の四月八日、お釈迦(しゃか)さまはカピラ国の浄飯王(じょうぼんのう)と摩耶夫人(まやふじん)との間に、ゴータマ・シッダルタ王子としてお生まれになりました。そして「釈迦族」という族姓から、後に「釈迦牟尼世尊(しゃかむにせそん)」と呼ばれるようになるのです。
お釈迦さまは、色とりどりの花が咲きほこる「ルンビニーの園」で、お生まれになってすぐに七歩東へ歩まれると、右手を上に、左手を下に向けて「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」とおっしゃいました。
このお言葉は「天の上にも天の下にも、私ひとりこそが尊い」という意味であると同時に、人間は生まれや育ちにかかわらず、みな平等に尊い存在だということも意味します。逆にいうと、その人の幸せや不幸は決して環境などから与えられるものではなく、すべて個々の心が作り出すものだということも示されているのです。
またお釈迦さまがお生まれになった時、天からは甘露(かんろ)の雨とたくさんの花が降りそそいだと伝えられています。この時のお姿を形どった像の上から甘茶(あまちゃ)をそそぐのも、この行事が「花まつり」と呼ばれるようになったのも、そうした由来があるからです。
日本人の宗教意識
お釈迦さまのご誕生をお祝いするこの行事を、旧暦を用いて五月に行う国もあれば、中にはその日を国民の休日にしている国もあります。しかし大多数が仏教徒であるはずの日本はというと、ずいぶんと様子が違いますね。
日本ではキリストの誕生日であるクリスマスになると、それが宗教的行事であることを意識しないにしても、プレゼントをしたりパーティーをしたりと大騒ぎです。しかしお釈迦さまのお誕生日をお祝いする花祭りは、これに比べるとなんだか寂しい限りです。
ところで、クリスマスはもともと「冬至祭(とうじさい)」であったものが変化したものという説があります。もしそうならキリスト教の教えや習慣とは、もともと関係のない行事ということになります。しかし、一年の内で太陽が再生へと向かう区切りともいえる「冬至」を、人々が意識の下で祝っているのだとしたら、お祭り騒ぎもうなずけないわけではありません。
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