現代は本当に便利な時代になった。携帯電話・コンピューター・自動車等、これまで家庭になかった物、またはあったけれども、家族で共有していた物を個人で所有する時代になった。皆が望んでいた、物の豊かな時代になったのである。

　しかし、それにともない社会で起きる問題や事件も複雑に変化してきている。学校でのイジメ問題は、携帯電話のメールやネット上での書き込みといった、教師の目の届かないところで行われている。また、振り込み詐欺や架空請求などの詐欺事件も、相手の正体がわからない点と、心の弱みにつけこんだ悪質な犯罪だ。

　私たちが得た文明は、膨大な情報を得ることができ、いつでも連絡がとれ、どこへでも行くことができる便利な文明である。しかし、これら私たちにとっての「便利」は、悪事を働く者にとっても「便利」であり、いつも物の豊かさと心の豊かさが比例しない。そして、次々と新たな問題に直面し、新たな物や対策を強いられ渇き続ける。

　私たちは、もういい加減気づくべきだ。真の幸福は、物が生むのではなく人の心が生むのだということに。刺身包丁一本とってみても、持つ者が魚をさばかずに人を殺（あや）めようと思ったなら、それはもう殺人の道具になってしまう。

　これからも文明は発達し、近い将来は食品や衣服などあらゆる物にチップが組み込まれ、コンピューターですべてを管理する時代がやってくるだろう。さらに「便利」な時代になる。しかし、これが悪用された時の反動もまた大きい。だからこそ、今、物を使う人々の心が変わらなければならないのだ。