夏休みの終わり頃、父親そっくりの次男は宿題にせっぱつまった状況になっていた。読書感想文を書くのに、本を読む時間はもう残されていない。
「お父さん、何かすぐに読めるモンないかぁ」
「宮沢賢治の『よだかの星』やったら、読むのに一時間かかれへんでぇ」
あきれた親子である。とはいえ内容が短いということは、感想文も当然短くなってしまう可能性が大きい。そこで、父親の守備範囲である「宮沢賢治と法華経文学」という切り口で、何とか共同で乗り切ろうという魂胆だ。
二日以内に改名しないと鷹に殺されるという状況に陥ったよだかは、大空を飛びながら多くの虫を口に入れてこうつぶやく。
「ああ、甲虫や、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう虫を食べないで餓えて死のう。いやその前に、もう鷹が僕を殺すだろう」
ここまで読んで、ハッと思い出した。食事のたびに口にする「頂きます」とは、自分の命を保つため、今から多くの命を頂くという意味であったことを……。親が子の宿題を手伝うという情けない状況の中で、思わぬ功徳(くどく)を頂いたような気がした。
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