「まいったよ、神社で交通安全のお祓（はら）いをして、その帰りに事故を起こしたんだから。神さんや仏さんに祈っておけば大丈夫だなんて、世の中そう甘くはないよなぁ」

　喫茶店で、たまたま耳にした話だ。

　「鰯（いわし）の頭も信心から」という言葉もある。しかし、鰯の頭を信仰の対象にして病気が治ったというのでは、どうしても合理的な納得は得られない。その点、近代教育を受けてきた私たちは一応の論理性を重んじ、科学的に証明されているか否かを、ごく自然に信頼の判断基準にしている。

　ところが、より高い次元の幸福を求めて知恵を絞り、導き出した結論を元に先を見通したつもりが、結果は策士が策に溺れていただけ、突き当たるは「苦」の世界！という場合も少なくない。一流大学を卒業し、一流企業に入社して昇進も順調、昇級もまたしかりと思っていたところが、青天の霹靂の倒産劇。最近では珍しくもない話だ。

　お釈迦さまは「この世界で生きていくことは苦しみである。苦しみを背負って生きること自体、自然なことである」と諭（さと）された。思い通りにならないことを、思い通りにしようとするから、人は苦しまなければならない。

　あるがままに受け入れるには、逆転の発想が求められるほどにコツが必要となる。しかし、苦しみの中にこそ、大きなステップが隠されているものだ。