舞踏家として世界にその名の知られた大野一雄氏は、百歳に手が届こうという今もなお現役で舞台を踏んでおられる。
「年を取るにつれ、次々に体験を積むわけですよね。死の間際だって、踊りの最大のチャンスではないかと思いますよ」
そんなすごいことをおっしゃる大野氏の、踊りの原点は「母親の胎内」だという。
「人間は生まれ、成長し、死んでいく。この過程で創造があるのではなく、お母さんのおなかの中で天地創造の技以上のものがはたらく。そして、お母さんは子供の生命の存続を願いながら、自分の生命を削って乳を吸わせ、死へ一歩一歩近づきつつある赤ちゃんを育てる。これは、いたむばかりの愛ですよ。私は生命から生命が生まれるように作品を創りたい。年を取るほど、そういう思いになってきました」
私たちは、大いなる世界の中で支えられ生かされている。すなわち信仰とは、私たちがいつどこにいようとも、普(あまね)くまわりに広がっている仏さまの慈悲が、私たち一人一人というミクロの世界に流れ込む不可思議な世界である。
大野氏は「寝てもさめても踊りのことばかり、無心になると踊りが生まれます」とおっしゃる。私利私欲の霧を晴らし、無心の信によって、仏さまの胎内に生かされていることに気づく……。これこそが、法華経が説かんとする重要な教えであり、私たちの救いとなるのだ。
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