「わざわいは口より出(い)でて身をやぶる。さいわいは心より出でて我をかざる」(日蓮聖人御遺文「重須殿女房御返事」より)
一億人総評論家時代。テレビやラジオ・新聞・雑誌に各種各様の論が花咲くようになって、そう時代を評されることもあった。しかし口論のにぎやかさに反比例して、誠実さや謙虚さは影をひそめてしまった感がある。
人の心というものは面白いもので、自分は当たり前のように評論家を気取ることはあっても、他人の言論に対しては「一言多い」「口先だけ」と、自身に対する以上に誠実さを求めようとする。
「口と財布は閉めるが得」
「口に針あり」
「口に蜜あり腹に剣あり」
「口をして鼻のごとくにす」
「口を閉じて眼を開き、耳を傾け」
自戒の念をこめて、口に関することわざを紹介してみた。「話せばわかる」とは言っても、口先だけの言葉で信頼関係は築けない。
「つつしみを、人の心の根とすれば、言葉の花もまことにぞ咲く」
言葉は人間同士のコミュニケーションにとって、非常に大切な道具だ。しかし道具だけに、扱う人の心構え次第で良くも悪くもなる。相手に対する敬いと感謝の心があってはじめて、言葉には美しい花が咲く。そうして自らを飾り、人を和(なご)ませることができるのだ。
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